ハンドメイズ・テイル侍女の物語 あらすじと考察 続編は”誓願”人工妊娠中絶に挑んだ問題作

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『ハンドメイズ・テイル侍女の物語』の原作はカナダの作家マーガレット・アトウッド「侍女の物語」(1985年)架空の第二次アメリカ内戦がによって新たなに成立したキリスト教原理主義に支配された全体主義国家を舞台に、出生率が異常に低下して”侍女”と呼ばれる生殖の奉仕を強制される女性を描いています。HuluオリジナルドラマでHuluにて配信されています。

この記事では『ハンドメイズ・テイル侍女の物語』のあらすじと感想、原作者マーガレット・アトウッドについて、またアメリカにおける人工妊娠中絶、そして続編「誓願」についての考察などを深堀りしてまとめました。

『ハンドメイズ・テイル侍女の物語』はHuluオリジナルドラマです。Huluでは最新作であるシーズン5まで配信されています。(Huluではアカウントをお持ちでない場合、無料お試しで見る、と言う方法もあります)



「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」あらすじと考察

ハンドメイズ・テイル/侍女の物語のあらすじ

アトウッドの創る「侍女の物語」におけるディストピアでは環境汚染、有害物質などの影響で女性の不妊が異常に増加し、子供の出生率が低下しました。

ギレアデ共和国の侍女オブフレッド。彼女の役目はただひとつ、配属先の邸宅の主である司令官の子を産むことだ。しかし彼女は夫と幼い娘と暮らしていた時代、仕事や財産を持っていた昔を忘れることができない。監視と処刑の恐怖に怯えながら逃亡の道を探る彼女の生活に、ある日希望の光がさしこむが……。自由を奪われた近未来社会でもがく人々を描く小説。

最初にこのドラマを観たときには砂を噛んだような何とも言えない嫌な感情が湧きました。「なんだこれは…?」もう観たくない、ムリムリ。と続ける事ができませんでした。こんなものを考えた人の頭の中はどうなっているんだろう?絶対にヤバい人だと思いました。

見ては止め、やめては見てを繰り返し、結局腹をくくって最後まで見届けました。なんかよくわからない義務感のようなものもありました。それに、登場人物にアレクシス・ブレデルが!? 非常に驚きました。あの「ギルモアガールズ」のローリーが「エミリー/オブグレン」として出ていたのです。大好きなローリーに何させるんや!?と、怒りまくりながらローリーがどうなるか心配で見た、と言うのもあります。


アメリカで起きた内乱によりキリスト教原理主義にに支配された独裁国家ギレアド共和国が誕生しました。そこでは妊娠可能な若い女性は家族があろうとも引き離され拉致監禁、侍女としての教育を受け、「司令官」と呼ばれる政府高官の家に派遣されます。

そこで、子供を産む役割を強制されるのです。決まった日(排卵日)に司令官の妻が見ている前で司令官と性行為させられます。声も上げず、感じる事も禁止されただ淡々と行為を受け入れるだけの儀式です。妊娠し、出産すれば子供は取り上げられ役目は終わります。次の司令官のもとに移動させられるのです。

侍女たちは厳しく管理され、見張られており、一切の自由がありません。文字を書くのも書物を読むのも禁止されています。キリスト教原理主義に基づき、「男性に従うだけの生物」として教育係の叔母(侍女の訓練担当)から洗脳を受けるのです。

唯一、外出できるのは食材の買い出しの時です。一人では行かせてもらえず、必ず他の司令官の侍女と二人一組での行動を強いられています。余計なおしゃべりも禁止。常に「目」という監視人が至る所に配置され見張られています。

そんな世界での主人公はジューン/オブフレッド(エリザベス・モス)以前は出版社に勤めていて、主人も子供もいましたが、拉致されるときに主人は殺され、娘ハンナとは引き離されます。ジューンが世界の恐怖に耐えながら、娘ハンナを探し出し、ともにギレアドから脱出するために闘っていく物語です。

ハンドメイズ・テイル/侍女の物語 考察衝撃的なシーンの数々

最初に見続けるのはムリ、と書きましたが実は違う意味での「なんだこれは…!?」みたいなシーンもあったのです。演出したの誰?ってツッコみたくなるような、儀式と呼ばれる性行為など。

教育係のリディア叔母による儀式の練習シーンなのですが、
妻がベッドで股を広げ、その間に頭を置いて寝っ転がる侍女、そして見下ろしながら「致す」司令官。最初見た時は嫌悪感しかありませんでしたが、何度か見るともう失笑。そして司令官に同情の念すら生まれてきました。


更に笑えるのは、いよいよ、侍女が出産となった時に、別部屋で夫人仲間に取り囲まれた司令官夫人が「ふー!ふー!」と疑似出産をしているシーンは最高にバカバカしくて笑えました。これ本当に原作に書いてあったのか?それとも演出なのか?いずれにしても、ありえなさ過ぎて呆れました。

しかし、この「出産」こそがハンドメイズ・テイル/侍女の物語の神髄なのです。

 



「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」アメリカにおける人工妊娠中絶問題

「妊娠人工中絶」におけるアメリカの歴史を探ってみました。

法律制定以前では―――

植民地時代から建国直後まで、中絶に関する法律は米国には一切存在しておらず、キリスト教会が中絶に関して快く思ってはいなかったものの、それはあくまで不道徳的な行為または婚前交渉の表れであるという見方をし、殺人とまではみなしていなかったと記述しています(オクラホマ大学法律大学院の法律史学者カーラ・スピバック氏が2007年10月発行の学術誌で発表)

1835年、米国の出生率は高く平均的な女性の出産回数は6回を超えており、妊娠出産を望まない女性には様々な選択肢があり、助産師に相談したり、近くの薬局へ行って市販の中絶薬や洗浄器具を購入することもできたそうです。

人工妊娠中絶を禁止

しかし、1821年にはそれまで無規制だった市販の中絶薬や胎動が感じられたのちの中絶に関して処罰されるようになりました。19世紀半ば、それまでは女性の助産師がケアしていた生殖周期を男性医師に任せるべき、と言う声が上がり同時に中絶への批判も始まりました。

1857年 ホレシオ・ストラーという婦人科医が「中絶に反対する医師の会」を立ち上げると、中絶を犯罪行為とする法律が次々に成立しました。奴隷制度の廃止、移民の流入などで白人以外の民族が多数派を占める事を恐れており、白人女性が国を守るためにもっと子供を産むべきだという考えからです。

1967年には、母体の健康が危険にさらされている場合と、性暴力の被害者を例外として、中絶は全ての州で重罪とされました。
しかし、それで中絶を求める女性の数が減るわけではありません。1970年代になり、法律の見直しが始まり、1973年の「ロウ対ウェイド」裁判により中絶の権利が認められるようになりました。

ザックリとですが、人工中絶問題に関する概要はこんな感じ。このようにアメリカにおいては「人工中絶問題」は政治にも大きく介入しています。よく選挙報道で中絶反対派、賛成派と言う言葉が聞かれますが、それは非常に大きな問題なのです。

これをふまえて、作家マーガレット・アトウッドについての考察をしてみたいと思います。

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」作家マーガレット・アトウッドについて

「フェミニズム文学の旗手」として紹介されることの多いマーガレット・アトウッドについて。

マーガレット・アトウッド 1939年11月18日(83歳)

カナダ・オタワ在住
イラストレーター、劇作家、脚本家、操り人形師としても活躍

邦訳のある作品の一部ダンシング・ガールズ)1989年)
スザナ・ムーディーの日記(1992年)
ペネロピアド( 2005年)
オリクスとクレイク(2008年)
キャッツアイ(2016年)
誓約(2020年)

1980年代に大統領だったロナルド・レーガン(共和党)は宗教を政治に組み込み保守層の支持を得る為「人工中絶禁止」を公約に掲げていました。1985年、マーガレット・アトウッドこれを見て、このままアメリカがキリスト教原理主義に支配されたらどうなるか?というアイデアにひらめき「侍女の物語」を執筆しました。

アメリカにおけるキリスト教原理主義とは
反同性愛、反中絶、反進化論、天動説支持、反共主義、反イスラーム主義、反フェミニズム、人種差別、ポルノ反対、性教育反対、地球平面説支持、エクソシズム信仰、神秘主義傾倒、家庭重視、小さな政府、共和党支持などが主な主張である。信者は南部、中西部で特に多い。

発表と同時にベストサラーになりカナダ総督文学賞、アーサー・C・クラーク賞などを受賞しました。2019年には続編となる”The Testaments”(誓願)が刊行されました。

2017年に「侍女の物語」を原作としたドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』がHuluで製作・配信されました。このドラマは物議を醸しまくると同時に高い評価を獲得しました。なぜかと言うと、シーズン1が配信された当時、ドナルド・トランプ(共和党)の政権下だったことなどがあり、多くの女性が危機感を持っていたからだと言います。80年代に書かれた小説が現在もなお影響力を持っている事に、この小説の根幹にあるテーマに多くの共感が集まっていると言えるでしょう。



「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」続編「誓願」について

『侍女の物語』から30数年を経た2019年に発表された『誓願(せいがん)』は『侍女の物語』の世界からから15年後を描く続篇です。

〈侍女〉オブフレッドの物語から15年後。〈侍女〉の指導にあたっていた小母リディアは、司令官たちを掌握し、ギレアデ共和国を操る権力を持つまでになっていた。

司令官の娘として大切に育てられるアグネスは、将来よき妻となるための教育にかすかな違和感を覚えている。

カナダで古着屋の娘として自由を謳歌していたデイジーは、両親が何者かに爆殺されたことをきっかけに思いもよらなかった事実を事実を突きつけられ、危険な任務にその身を投じていく。

まったく異なる人生を歩んできた3人が出会うとき、ギレアデの命運が大きく動きはじめる。
『侍女の物語』の続篇となる長篇小説。

「侍女の物語」では主人公オブフレッドの視点で描かれていたストーリーが「誓願」では語り手の女性は3人いる。政府の重鎮となったリディア小母。ギレアデ共和国の司令官の娘アグネス。カナダに住む古着屋の少女デイジー

建国時のギレアデの動乱は落ち着いてはきたものの、やはりキリスト教原理主義にのっとって「女は弱く罪深い生き物」「男性に従うべき生き物」と教育を受けて、小さい頃から花嫁修業、文字を書くことも本を読むことも禁止されています。

とりわけ鬱屈とするのが、少女たちが教育により「自分たちの身体を罪だ」と感じ、自分の身体と性を嫌悪するくだりだ。「男を誘惑する罪」「清らかでいることの重要性」をすりこんでいくことで、女性たちが自分の身体に自信や愛着を持てなくなる。残念ながらこういう話は現実にどこでもあり、暗澹とした気持ちになる。

実はこれ、物語の中の話だけではないのです。私事で恐縮ですが、私の家もカトリックの信者。「性」に関する事は特に厳しくしつけられました。「女は弱く罪深い生き物」「男性に従うべき生き物」「男を誘惑する罪」「清らかでいることの重要性」「自分たちの身体を罪だ」こう言ったような事を擦り込まれて育ちました。

また、TVで男女が一緒にいるシーンなど、特に手をつなぐだけでチャンネルを替えられてしまいましたし、日曜日には教会に連れていかれるのですが、反抗心の強かった私はその時間が嫌で嫌で仕方ありませんでした。同い年くらいの小さな子が大人の真似をしてお行儀よくしているのを見ると、余計でも腹が立ちました。

横道にそれてしまいましたね、すみません。

本文より―――

「トショカンってなに?」
「本をしまってある場所。本でいっぱいの部屋が、たくさん、たくさんある」
「それって、邪なもの?」わたしは訊いた。「そこにある本って?」わたしは部屋いっぱいに爆発物が詰めこまれているさまを想像した。

文字を書くことも本を読むことも禁止されて育った女性たちが、文字を使って自分たちの記録と記憶を物語として残す、その文字と記録は再度、私たちに問いかけます。「女性である意味とは?」

2019年9月の時点ではHuluとMGMが本書のドラマシリーズ化を検討していると発表されていて、その後の情報は見当たりませんが恐らく制作に向けて進んでいると考えられます。

ハンドメイズ・テイル侍女の物語 あらすじと考察 続編は”誓願”人工妊娠中絶に挑んだ問題作のまとめ

『ハンドメイズ・テイル侍女の物語』の独特の世界観を女性であるマーガレット・アトウッドが書きました。「出産」と言う究極の痛みに耐えらる女性の強さ、フェミニズムを表現するためにここまで極限を追求した作品は他にないでしょう。

また、エミリー/オブグレンである、アレクシス・ブレデルについての記事も書いています、よかったらお読みください

アレクシス・ブレデル「ハンドメイズテイル」降板理由はなぜ?ヴィンセント・カーシーザーとの離婚の真相は?
「ギルモアガールズ」のローリー・ギルモア役で映像作品に初出演したアレクシス・ブレデル。その後、衝撃的なドラマ「ハンドメイズ・テイル/次女の物語」Huluオリジナルに登場、同性愛者のオブグレン・エミリーとして出演しました。シーズン4まで出演し...

〈Pinoko編集局〉


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